COLUMNCOLUMNグーフィ森の『Single Speaker』

Single Speaker Vol.9 「またポール来るんだって!? 」 

2014-03-31

先日、有り難いことに58回目の誕生日を迎えました。大病を発症してこの夏で丸6年、いろいろありました。リハビリも大変です。そんなボクに音楽業界の方々から「グーフィさんも大変でしょうが、今は音楽業界もご存じの通りドン底ですよ。いったい音楽にどんな未来があるんでしょうかねぇ〜?」とよく問いかけられますが、ボクにも音楽の未来などわかるはずなどありません…。

さて、先日の誕生日に『G-SHOCKマニア』のボクに素敵なプレゼントが届きました。昨年、誕生30周年を迎えたG-SHOCKの復刻モデルとスペシャルエディション、それにG-SHOCKのマスコットフィギュアの3点を収納したボックスセットです。これはマニアにとっては超レアなスペシャルセットで発売当初はその人気の為、手に入れることが出来ず諦めていたのです。で、下の画像の3点セットがドーーンと。

実はこのセット、超マニアのG-SHOCK信者にはヨダレモノの激レアアイテムとなったのですが、一般的なG-SHOCKファンの間でちょいと不満が囁かれたとの情報もチラホラ。これは30周年記念モデルだけに発表当時のオリジナルを復刻させたスペシャルエディションです。1本はカーボンファイバー入りの特殊コートを施したストラップに各種金属パーツのゴールド化が図られたモデル、もう1本は元祖モデルの復刻版でフェイスにG-SHOCK開発当時のチーム名である“Tough”をプリントするという力の入れよう。他にも随所に特別仕様がなされています。全世界で5億本発売(ギネス記録)されたデジタルウォッチのスペシャルエディションだけになかなかの出来。しかしこれが今ひとつファンに届かなかった模様。なぜなら現在のG-SHOCKの上位機種はソーラー電波時計であることが常識。すこぶる強く、無限のエネルギーを得て正確無比に時を刻む、常に最新最強を求められています。しかしこのスペシャルエディションは発売当初のスペックを踏襲したクオーツモデル。そしてマスコットフィギュアは時計機能があるかと思いきや、フェイスに目だけがプリントされただけというもの。確かにこの3点セットのボックスは貴重で面白い組み合わせだとは思います。しかし3つをセットにしたことで少々高値にもなってしまいました。やはりG-SHOCKは最新最強でしかも手軽に手に入るというのがウリのはず。スペシャルエディションとは言え、一般的なファンのニーズはそこにあったんじゃないでしょうか。このセットは製作者サイドとファンにちょっとしたボタンの掛け違いが生じてしまったケースなのかもしれません。オリジナルの復刻で時計の中身は最新のソーラー電波時計だったら…、マスコットフィギュアも目覚まし時計になるという楽しい仕様だったりしたら…、3点の組み合わせを自由にチョイスできるシステムだったなら…、そうしたら出遅れたボクの手元に届くことはなかったと思います。

このパターンで大ヒットを生んだケースがあります。2000年11月にトヨタ自動車生産累計1億台達成の記念として1,000台限定で発売したトヨタ・オリジン。実はこれ初代クラウンの復刻モデルだったんです。けれど中身は中型車の最新鋭モデルのプログレがベース。ルックスはまぎれもなく初代クラウンで発売当初と同じ観音開きのドアという徹底ぶり。されど中身はトヨタが誇る最新鋭のテクノロジーの塊。当時トヨタの最高機種だったセルシオよりも高い700万円という車両価格にも関わらず大ヒット、即完売。今でも中古車市場ではレアアイテムとしてすこぶる人気の高いモデルです。

この2つの復刻モデル、どこが人気の分岐点だったんでしょう? オリジナルを重視するがあまりファン心理の逆を突いてしまったデジタルウォッチ。昔のクルマに乗りたいが中身は最新鋭ってのがカッコよろしいとクルママニアの購買意欲に火を付けた往年の名車の復刻モデル。

この明暗を分けた2つのケースはボクら音楽制作者にとっては耳が痛い話というか、核心を突かれたような話です。音楽を創るに当たって悩みに悩んであれこれチョイスしたものが盛り込みすぎだったり、はたまた進化を表現したいが為に先走った作品創りをしてしまったり、様々な失敗を重ねたことがオーバーラップします。ましてや映像や音楽に押し寄せたデジタル化の波があまりに大きく速かった為に、それに乗り遅れてなるものかとあれやこれやとてんこ盛りにしすぎ、結局のところ策に溺れてしまっていたということも多々ありました。デジタル化が始まった当時、どのクリエイティブチームも反省しきりでした。日進月歩で進化する映像と音楽のデジタル化は、時間とお金さえかければ具現化の可能性がアップするという世界に突入してしまいました。ボクらがかつてそれは大変な労力をかけて製作したものが、今やいともたやすく再現可能となってしまいました。バーチャルアイドルの『初音ミク』が人気を取り、プロジェクション・マッピングが異次元とも言える映像美を作り出す、いやはやボクらの世代のクリエイターからすると夢のような羨ましい展開となってきました。しかし老婆心ととられるかもしれませんが“なんでも出来る”は、それはすこぶるセンスが問われることになるということです。映像にしろ音楽にしろそのデジタル化は製作者のスキルアップの時短化を進めました。コピーアンドペーストという魔法の杖を手に入れたようなものです。魔法の杖で何をするのか? それが問題です。つまりは本質的なものが問われ出してきたということかもしれません。

デジタル化によって音楽産業が劇的に変化する中、音楽産業にとっての本質とは何か? が問われているんだと思います。レコード、CD、デジタルデータと音楽の形はめまぐるしく変化してきました。どんどん身近にそして手軽になり、音楽はデータとして無料で手に入る環境になってきました。

そんな時代ですからアーティストの生業は音源製作からライブへとその比重が移行してきているように思います。極端に言うと、お客さんの前で歌ってナンボ!? という世界になってきているんじゃないかと思えるのです。ストーンズも来ました、またポールがやってくるそうです。ボクらとしては嬉しい限りですが、逆に言うとレコードセールスのみでは音楽産業が成り立たなくなってきているのではないか? その危惧をビッグアーティストの来日ラッシュに感じずにはいられません。

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