COLUMNCOLUMNグーフィ森の『Single Speaker』

Single Speaker Vol.11 「BEST3とNo.1」 

2014-05-30

暑くなってきました。ですが、今年はエルニーニョで冷夏になるかもしれないとの長期予報が出ています。全くもって最近の気候はますますわからなくなってきましたね。変動しきりです。デジタルの波に翻弄されている音楽業界のように…。
さて、今回はいただいている読者からのご質問に答えたいと思います。ひとつはプロデュースした曲の中から好きなベスト3をセレクトしてみてくださいというものと、今後プロデュースしてみたいアーティストは(国内外問わず)? というものでした。これは難題です。もうあれやこれや頭の中を巡る巡る…。じっくりと考えてお答えします。


●「今までプロデュースした中でお気に入りの3曲は?」

○ 高中正義/Biscayne Blue(アルバム『HOT PEPPER』より)
○ 福山雅治/IT'S ONLY LOVE
○ 福山雅治/Dear(アルバム『ON AND ON』より)

この3曲には“初モノ”という共通点があるんです。
まず、最初にセレクトした髙中正義の『Biscayne Blue』ですが、正確に言うとプロデュースではなくこの曲が入っているアルバム『HOT PEPPER』にアルバムのコンセプト・メイキングとアート・ディレクションで参加したんです。彼のようなビッグネームとがっぷり四つに組んで仕事をするのはこれが初めてのこと。サウンド・プロデューサーが、かのマイアミ・サウンド・マシーンのボス、エミリオ・エステファンという超大物の起用です。しかもレコーデイングはマイアミにあるエミリオの自宅のゴージャスなスタジオ。そしてトラックダウンの作業はバハマ諸島のコンパスポイントスタジオ。仕上げのマスタリングはニューヨーク。まるで夢のような“初モノ”尽くしの3週間でした。そして最も重大なことは、この『Biscayne Blue』というタイトルはボクが提案したものなんです。エミリオ邸とスタジオはスーパースターたちの豪邸が建ち並ぶビスケイン湾に浮かぶリゾートアイランドにあり、周辺のトロピカルな景色と相まってまさにスーパーリゾート。その雰囲気をなんと伝えたらいいだろう、ってところからBiscayne Blueというワードを思いつき、タイトルとして提案したのです。即、採用でした。ボクの楽曲タイトル発案第1号、つまり“初モノ”です。

残りのふたつは福山雅治の楽曲です。なんたって18年間プロデュースさせてもらいました。中でもこの2曲は強烈なイメージで焼き付いています。
『IT'S ONLY LOVE』は1994年3月に発表した楽曲で、福山雅治初のオリコンチャート第1位、しかも4週連続です。そしてこの曲が初のミリオンヒット、まさに“初モノ”づくし。おそらくはボクの提案と福山の才能がうまく化学反応を起こしてくれたんでしょうね。ずいぶんと難産な作品でしたが、その後の福山の大躍進のきっかけになった1曲だと思っています。曲創り、アレンジャーの起用、PV製作…、苦労しましたが結果すべてがうまく運びました。この難産を乗り越えたことで福山を中心に各方面のクリエイターが集結し、“Team FUKUYAMA”が誕生しました。大きな一歩でした。

“初モノ”に関してはこの曲が一番です。この曲『Dear』は1994年の6月に発表されたアルバム『ON AND ON』に収録されている1曲です。ロサンゼルスで曲をいちから創り、レコーディング、トラックダウン、マスタリング、そしてジャケット撮影に至るまで、全てを海外で行ったという福山にとって記念すべき“初モノ”のアルバムでした。中でもこの『Dear』は大きなテーマに挑んだ大作です。今までの福山にはないバラードに仕上げようと、新しいアプローチにチャレンジしたのです。五木ひろしさんの『よこはま・たそがれ』を思い出してみてください。ワードが並んでいるだけという不思議な詞が展開されています。「♪よこはま たそがれ ホテルの小部屋…」ねっ、考えてみると不思議な詞でしょ。作詞を担当した山口洋子さんの非凡なる才能に驚くばかりです。これの福山雅治バージョンにチャレンジしてみようということになったんです。これまた難産でしたが、このコンセプトはハマりました。「♪真夜中の電話 雨のドライブ 喧嘩した…」ねっ、ドンピシャでしょ。このアルバムも見事オリコンチャート1位を獲得。発表して20年たった現在でも、ファンの間では根強い人気のある1曲です。そしてこの楽曲にはもうひとつの秘話があります。「ロッカバラードだからカッコイイ泣きのギターが欲しいよね」と、福山。そこでボクは「マイケル・トンプソンがいいんじゃない?」と提案。実はボクは当時、西海岸イチのセッションギタリストと呼ばれていた彼の大ファンだったのです。そこでサウンド・プロデューサーの小原礼氏が彼にオファーをおくってくれたのです。夢は叶いました。福山、小原氏、そしてボク、3人が納得する素晴らしい楽曲に仕上がりました。もしかするとこの楽曲がセレクトした3曲の中でも最も思い入れのある楽曲なのかもしれません。


●「国内外を問わずプロデュースしてみたいアーティストはいますか?」

さてさて、このご質問は弱りましたね。もうごちゃりといます。あの人もこの人も…、あのバンドもあのグループも…、そう考えるともうグルグルまわって結論が出なくなります。冷静になってよーく考えてみました。

1992年、友人の萩原健太と今野多久郎と組んで五木ひろしさんをプロデュースしました。これが実に面白かった。作詞をアルバム全編松本隆さんが担当してくれ、吉田拓郎さんや玉置浩二クン、米米CLUBのメンバー等がコンポーザーとして名を連ねてくれました。異種格闘技のようなレコーディングが続き、毎日がカルチャーショックの連続でした。「音楽ってやっぱ素晴らしいなぁ」と実感できた1枚でした。あの思い出をもう一度、というわけではないのですが、その卓越した歌唱力、プロフェッショナルとしての表現力、とにかくいま現役シンガーの中でナンバーワンだと思える石川さゆりさん、この人をプロデュースしてみたいなぁ。演歌とか歌謡曲などというジャンルを飛び越えた名曲が誕生しそうで、考えただけでもワクワクします。

国内外問わずといわれたので、もう1組プロデュースしたいアーティスト(?)がいます。それは世界最高峰のオーケストラ、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団です。これは本当に畏れ多いのですが、夢として綴っておきます。ロック少年のボクは意外にもオーケストラ好きなんです。クラシックナンバーばかりでなくオーケストラで奏でられた映画音楽は最高です。それにこれまた意外にもインストゥルメンタル・ミュージック好きときています。先にも書いた福山クンとのお仕事の中でも、実に4枚のインストアルバムを発表しているんです。趣味に走ってしまいました(笑)。その内の1枚は服部隆之クンの編曲で、福山の楽曲をクラシックにアレンジしてしまうという1枚。ここからが本題です。このアルバムに起用したのは、かのロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団、そして場所はロンドンのアビーロードスタジオ! 実はこれはボクの夢だったんですが、服部クンの夢でもあったんです。ロイヤルフィルを起用してイギリスでレコーディングすること、というのが2人の共通の夢でした。そしてこの夢には続きがあったんです。それは、いつかドイツでベルリンフィルと仕事をしてみたいということ。これはまだ実現できていません。だからの、石川さゆりに次いでベルリンフィルハーモニー管弦楽団かな、ということになりました。夢のような話になりますが、大好きな山下達郎さんの楽曲で綴られるベルリンフィルによるインストゥルメンタル・アルバム、なんてのが実現できれば…。


こうやってリクエストがあるとコラムの筆が進みます。何かご質問・ご意見などあればよろしくどーぞ。よろしくどーぞといえば、FMヨコハマのプログラム『ロックページ 〜ミュージックプレゼンテーション〜』、こちらのほうもよろしく!

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