COLUMNCOLUMNグーフィ森の『Single Speaker』

Single Speaker Vol.12 「フェスにズルはダメ!」 

2014-06-30

前回、エルニーニョの発生で今年の夏は冷夏と書いたとたんに猛暑、そして昨年以上の豪雨続き。全くもって最近の天気はと思っていると窓の外が真っ暗に、そしてものすごい雷、と思ったら凄まじい豪雨。今日もゲリラ豪雨です。そういやー、あの頃は“ゲリラ豪雨”なんて言葉はなかったなぁ。しかしあの日の雨こそまさにゲリラ豪雨だった。

それは1987年8月22日、熊本県阿蘇の野外劇場アスペクタの柿落しとして開催された日本初のオールナイトロックフェスでのこと。そう、のちに伝説となった『ビートチャイルド』です。佐野元春、尾崎豊、BOØWYなど13組のロックアーティストが出演し、7万2千人のオーディエンスが集まったという国内最大級の野外コンサート。前日までの天気予報は晴れでした。ところが蓋を開けてみると2バンド目のTHE BLUE HEARTSの出演時からパラパラ、そしてその後一瞬にしてバケツをひっくり返したような豪雨。客席は草地の斜面であったためドロドロのグシャグシャ。ステージには屋根がなく楽器や機材が故障するわ、客席ではオーディエンスが低体温症でバタバタ倒れるわで大騒ぎ。今ならコンサート中止というのが普通なのでしょうが、当時は開催する側も参加するオーディエンスも未経験なことばかりでした。帰ろうにも最寄りの駅までの交通機関はなかったので主催者側も出演者もコンサートを続行、オーディエンスもそんな悪条件に逆に異常な盛り上がりをみせコンサートハイに。ボクはレコード会社の招待で行っていたものですから「このままでは帰れなくなります。ここは最後まで観ずに戻るのが得策だと思います」とレコード会社のディレクターに促され、10バンドほどを観たあと後ろ髪を引かれながら会場を後にしました。これがのちに大失敗だったと気付きました。苦労せずに会場を後にしたことで大きな、そして大切なものを忘れてしまっていたことに気付かされたのです。フェスの方は朝焼けと同時にオーラスを迎え、それは奇跡的とも言える感動的なフィナーレを迎えたのです。その場を体験したスタッフから「感無量でした。あの場にいたスタッフ、出演者、そしてオーディエンス全ての頬に光るものが流れていました。サイコーでした!」と伝えられた時には「しまった! 大きな忘れものをしちゃった」と悔やんだものです。

はて、これに似た経験があるような気がします。そうそう1970年の夏の事です。ボクは中学2年生でした。夏休みを利用して、友人ふたりと2泊3日で大阪万博へ出掛けたのです。そりゃもう見るもの聞くもの全てがカルチャーショック。当時あんなに外国人を見たのも初めてでした。アジア初の万国博覧会に日本国中が舞い上がっていました。博覧会ハイ(!?)と言ったところでしょうか。連日20万人を超す動員の会場で、目を白黒させながらも日本海の田舎町から来た少年達はすこぶる冷静に悪さを働きました。一番人気のアメリカやソビエトのパビリオンは7-8時間という気の遠くなるような待ち時間でした。従って行列に並んでいたのでは2泊3日では到底会場を全て回りきることはできません。そこでこうすりゃいいんじゃないかと思いついたのが、出口から入るという反則の荒技でした。ですが当然警備員につまみ出されてNG。で、思いついたのが出口で「すいません、両親達とはぐれてしまったんですが見に行ってもいいですか?」と言って出口から入り、人の流れとは逆方向に入口までダッシュ。そしてさも入口から入ったような顔をしてパビリオンを堪能するという大反則技でした。この荒技のお陰で2泊3日で全パビリオンを制覇しました。全くもって悪ガキです。ですが、家に帰ったときにボクは家族にこの話を出来ずにいたのです。それは博覧会に出掛けた近所のおじさんが「6時間並んで見た“月の石”には感動したねぇ!」と話していたからです。ボクも月の石は見ることが出来ました。しかし炎天下で長時間並び汗だくになって手に入れた感動ではなく、恐ろしく混んだパビリオン内を人をかき分けて逆走し、バレやしないかと冷や汗をかいて手に入れた“月の石”との初対面でした。

豪雨の中、用意されていた美味しい食事と控え室。そして途中抜けするために用意されたクルマ、その挙げ句“忘れものをしてしまった”と気付かされた『ビートチャイルド』。大反則技で手に入れた“月の石”との対面。このふたつはある意味ボクにとって苦い教訓です。豪雨の中、出演者やオーディエンス達と一緒にグシャグシャになっていたスタッフが語っていた「サイコーでした!」、そして炎天下の中6時間並んで初めて見た“月の石”を熱く語ったおじさんの「感動した!」。このふたつの言葉は“本物”です。これこそがフェスティバル、いやフェスの醍醐味です。全てを実体験・体感したのちにこそ本当の感動が手に入るということなのかも知れませんね。

この夏もたくさんのフェスが各地で開催されるそうです。フェスの楽しみと言えば、やはりひとつのイベントでたくさんのアーティストを体感できると言うこと。そしてなにより感動を多くのオーディエンスと共感できることです。
さぁ、みなさん準備はいいでしょうか!? 

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