COLUMNCOLUMNグーフィ森の『Single Speaker』

Single Speaker Vol.14 「そんなことあるかい! そんなことないだろ!」 

2014-08-27

58年間生きてきて、カラオケにはなんと2、3度しか行ったことがないんです。カラオケが嫌いというわけじゃないんです、苦手なんです。その理由は大きく2つあります。1つはお酒が飲めないからです(トホホ)。よってシメのラーメン、そしてカラオケにはなかなかご縁がなかったのです。お酒の席で常にコーラを飲んでいるような大きなコドモはシメには誘われませんよね(笑)。カラオケは大人の社交場ですから...。2つ目の理由は出会い頭の経験が大きなトラウマになっていたからです。それは1980年代のことでした。コンサートの打ち上げが、当時流行っていたカラオケバーであったんです。まだカラオケボックスが生まれる前のことでした。お店のフロアにカラオケの機器と小さなステージがセットされていて、客の前で熱唱するというパターン(ボクら世代には懐かしいはず)。これが実に恥ずかしかった。ギターを弾き、人前で歌うのはなんの問題もなかったのですが、マイクを握りステージに立ちひとり熱唱するのはどうにも...。経験のある方ならおわかりでしょうが、まぁ客のリアクションがそれは情けない。ボクが必死で熱唱していても客席を見渡すと、次は自分が何を歌おうかとソングリストをめくることに専念する人、飲食に必死になっているヤツ、全く関係のない話で大盛り上がりしているグループ、とにかく誰一人としてボクの歌(決してうまいとは言えないかも...)など聴いていない。それがボクのカラオケ初体験。カラオケバーが六本木界隈で流行り始めた頃の話です。こんな初体験じゃ好きになるはずはないでしょ。よって58年間で2、3度という恥ずかしいまでの経験となっているわけです。

ボクが苦手意識を持ったまま、あれよあれよと言う間にカラオケ市場は大きくなり、8,000億円に迫る産業にまで発展しました。そしてハードも目覚ましい進化を遂げました。今や世界を席巻するメイド・イン・ジャパンの文化と言えます。そのことを身をもって体験し、尚且つ再度のトラウマとなった出来事がありました。それは手掛けたアーティストのヨーロッパツアーの際のこと。スペインのバルセロナで打ち上げをやった時のことなんです。打ち上げ会場となったBar(バル)にはなんとカラオケがありました。当然カラオケ大会です。酒に酔った連中はその勢いに任せてでたらめスペイン語で熱唱します。すると一般客(当然スペイン人)は、抱腹絶倒で大ウケ。お察しの通り、コーラを飲んでいるボクにもマイクが回ってきました。なかなか知っている曲がソングリストになく、やっと見つけたビートルズをヘタな英語で歌いました。それまでの大ウケでたらめスペイン語の歌から一転、ボクのクソ真面目な歌で、陽気なスペインの夜は静寂に変わりました...。ボクの強力なトラウマ第2弾です。

そんなカラオケに今、少し“物言い”があります。最近、テレビで採点カラオケを採用した「カラオケバトル」のプログラムを目にすることが多くなりました。そればかりかレギュラー番組もチラホラ。で、このカラオケバトルに一言物申したいのです。歌の採点をピッチ(音程)とリズムを主体とした機械による判定だけに頼っているのはどうしたものでしょう。びっくりすることにその歌を歌っている本家本元のシンガーによる歌唱に、素人(歌ウマ芸能人)が対戦して勝ってしまうことがあるんです。それに解説者が「譜面に忠実に丁寧に歌っている挑戦者の方が、ご本人よりもいい得点が出たんだと思います」、そんなことあるかい、そんなわけないだろ! まさか最近は採点カラオケの高得点者の歌=上手い歌とされているんでしょうかね。どんなに細かいデータが入った判定であってもしょせんは機械にインプットされたデータでしかありません。歌は数値で全て採点出来るものではないと思います。数値化できないところにこそ“歌の味”があるんじゃないでしょうか。「味のある声だねぇ」とか「味のあるオケだねぇ」とか、そういった言葉の中にこそ、数値化できない何か大きな魅力があるんだと思います。カラオケ歌いとでも言うのでしょうか、昨今 味気ない歌い方のシンガーが続々と登場してくるのは、まさか採点カラオケの判定方法が世に蔓延してしまった為ではないでしょうね!? と、危惧しています。音楽を楽しむという点ではカラオケは大賛成です。しかし、カラオケ採点による味気ない歌い方がいい歌い方の尺度となってしまうようでは困りもんです。

全てがデジタライズされる中で“歌の味”を追求するのは難しいことだとは思うのですが、音楽の本質に“味”は大きなファクターであることは確かです。カラオケ好きの皆さん、どうか“味のある歌い方”にチャレンジして場を盛り上げてくださいませ。

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