COLUMNCOLUMNグーフィ森の『Single Speaker』

Single Speaker Vol.15 「素敵な出逢いが二つありました、音楽の出逢いです。」 

2014-10-02

音楽はいくつになっても新しい出逢いを提供してくれます。
大病を患ったことで視聴覚にもハンデを抱え、そのために聴く音楽もここ数年変化してきたように思います。かつてのように爆音でロックを聴くという日常ではなく、クリアで優しい音の音楽を好む傾向になってきました。以前にも書いたように、このコラムのタイトルとなったフルレンジのシングルスピーカーを手に入れたのも優しい音を聴くためでした。

寝る間も惜しんで働いていたボクが、日がな一日車椅子に座って過ごすことになりました。かつては「いくらあっても時間が足りない」といつもボヤいていたはずのボクに、ビックリするほどたっぷりとした自由時間が与えられることとなったのです。音楽を創ることを生業としていたわりには様々な音楽をゆっくりと楽しんで聴く、そんな時間さえ持てなかったように思います。そこでまずは自分のミュージックライブラリーを振り返ってみることにしました。フェイバリット・アルバムから流しはじめてみると、青春時代にカラダに刻み込んだ8ビートサウンドは一向に色褪せないまま、あの時代へとタイムスリップさせてくれました。しかし、かつてはあれほど熱中していたサウンドが、不思議なことにどこか新しいカラダにしっくりこない。体調のせいだけではなく、シニア世代へと突入したからなんでしょうか(笑)。ならば若い頃に聴きそびれた音に今またチャレンジしてみるのもいいんじゃないか、と思いついたのです。そこでリストアップされたのが、音楽的にその存在を認めつつも食わず嫌いだったクラシック音楽とジャズ。どちらも爆音で聴く音楽じゃないしね!? それにボクは大のインスト好きでしたから、この二つの音楽は意外やすんなりとカラダに入ってきました。それから部屋で一人、シングルスピーカーから流れる優しい音でクラシックやジャズを好んで聴くと言う日常になりました。どちらの音楽もザックリとした知識は持っていましたが食わず嫌いだった故、耳に馴染みがなかったのです。“もったいなかったな”と正直思いました。絶対にもっと早く出逢っておくべき音楽だなと。当然ですがどちらも素晴らしい、しかも実に奥が深い。自由にネットサーフィンや書物を読むことが出来れば、クラシック音楽やジャズについての知識をもっと深めたいのですが…。まぁ、かなりの音源がライブラリーの仲間入りを果たしました。

そこで気づいたことがあります。ボクがロック少年だった頃にも、前衛的な音やインプロヴィゼーションで成り立ったセッション的な音楽は苦手でした。それはクラシックやジャズにおいても同様の傾向にあるようだと気づかされました。アバンギャルド過ぎるアプローチの音楽はどうにも苦手なようです。前衛的な現代音楽、そして即興演奏がベースとなっているようなフリージャズとか…。人それぞれ“好きな味覚”というものがあるじゃないですか、その音楽版みたいなものでしょうか。どんなに美味しいと薦められてもどこまでいっても辛いモノは苦手なボクです…、的な。クラシックとジャズに改めて出逢ったことでボクの音楽志向は格段に広く、そして深くなったことは間違いありません。

“音楽的深化”は感性をある意味鈍化させてはしまわないか!? いや、そんなことはありませんでした。
パワフル&スピーディなギンギンのスカ・サウンドを探し当てました。実は最近、乗れないくせになぜかバイク(自転車)のWEBカタログを眺めることが多くなっていました。すると、ある時カッコいいバイクを見つけたんです。自転車大国ニッポンならではの新提案、ベルトドライブによるスポーツサイクルです。クリーンかつ安全、そして高効率の運動性を兼ね備えた自転車のニューカマー。クルマでいえばハイブリッドというところでしょうか。イメージカラーがいま流行のネオンイエロー、サドルはカモフラージュ柄ととってもイマドキでカッコよろしい。そしてこのバイクのイメージ映像で流れていた曲に“ビビッ”ときたのです。それが素敵な出逢いの一つ、スカミュージシャン、レイ・マストロジョバンニの『Real Story』と言う曲(出演していたのもアーティスト本人でした)。彼はイタリア系アメリカ人の父と日本人の母をもち、大阪生まれのアメリカ育ちで現在日本で活動するミュージシャン。パンキッシュでスピード感のある彼のスカはラップにも通じるところがあって、なにせやたらカッコイイ。新しいサウンドを探している方にはぜひともチャレンジしてもらいたい楽曲の一つです。そしてまた、このサウンドはボクに新しい世界を教えてくれました。実はこの楽曲はノンパッケージの彼のミニアルバム『MINT』に挿入されたナンバーです。つまりネットでしか購入できない、これまたイマドキな音楽です。随分とポピュラーになったんですねぇ。パッケージによるアルバムがあって配信、というパターンがボクの現役時代はスタンダードでした。よってパッケージがない作品をネットで提供するアーティストとの出逢いは初めての体験でした。ボクにとっては初モノです。現役を退いてから音楽産業は凄まじい加速度を持って変化を遂げてきました。若干取り残されてしまった孤独感があったのですが、その穴を埋めてくれたのもやっぱり音楽でした! 

“自然浴”って何だかわかりますか? これこそが二つ目の素晴らしい出逢いなのです。あのアコースティックギターの鉄人、吉川忠英氏のニューアルバム『Relax&Slow 〜Natural Style』を聴いて思いついた言葉が“自然浴”。森林浴ってあるでしょ、その拡大版とでもいうのでしょうか。森林というエリアにとらわれず、野山全てとでもいうのか自然に包まれることを“自然浴”と呼んでしまえばいいんじゃないか、そんなことを鉄人のアコースティックギターが奏でているように思ったのです。そんなことはあるわけないのですが、もしも自然がギターを奏でることが出来たのなら、この鉄人のように奏でたに違いありません。自然の謳とはこんなサウンドじゃないだろうか、そんなことを敬愛するミュージシャン吉川忠英氏のアコギが教えてくれました。

こんなふうに音楽はいつも感性を自由に遊ばせてくれたり豊かにしてくれる。ボクにとっての最高の友といえるべき存在なのです。
音楽って素敵ですね。

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