COLUMNCOLUMNグーフィ森の『Single Speaker』

Single Speaker Vol.21 「音楽バブルってなに?」 

2015-05-12

ボクが参加しているFMヨコハマの番組『ロックページ』の新アシスタントMC(番組内では研究員と呼ばれています)の菖蒲理乃クンが、先日のオンエア日に20歳の誕生日を迎えました。そこで番組内で彼女の生まれ年の楽曲をオンエアすることに…。で、1995年のチャートを見てみるとビックリ!? なんとこの年には邦楽が洋楽を圧倒し、国内で28曲ものミリオンヒットが記録されていたのです。そうでした、そうでした! 90年代に入り日本は空前のドラマブーム。テーマ曲だの主題歌だの、タイアップしていた楽曲は、出る曲出る曲100万枚突破。音楽業界では“ドラマバブル”とまで言われていました。ドラマとのカップリングはCDセールスのみならず、ライブへのオーディエンスの動員増加を生むなど、まさにミラクルを連発したのでした。エンタテイメント先進国の欧米ですら、これほどまでのタイアップバブルはありません。日本独特の歩みではないでしょうか!? この当時、テレビ媒体と組むことは“倍体”と呼ばれ、まさにセールスが倍増するとまで言われていました。まぁ、ボクもしっかりこの流れの中にいたのですから、ここでちょいとあのバブルの頃のことを思い出してみましょう。

当時は日本経済がバブル期真っ只中でしたから、広告代理店がテレビ業界に於いて更なる力を付けてきていました。それにより“マーケティング戦略”という、データベースを元に企画された様々な取り組みがなされ、更なる市場拡大というミラクルを生む原動力になっていったのではないかと思っています。単なるテーマ曲等のプレゼンテーションだけではなく、様々なキャンペーンイベントや視聴者プレゼントなどなど、どの分野でも密にコラボレーションを展開していったことでセールスバリューが更に広がり、まさに“倍体”と呼ばれる現象となりました。

この倍体現象、いわゆる音楽バブルは、いずれは消えてなくなる泡のようなものと、当時は誰も考えてはいませんでした(ボクもね・笑)。だから今思い返すと、とんでもない茶番劇がテレビ業界・音楽業界で勃発していたのです。「いや〜主役がね、あのテーマソング気に入ってないみたいでねぇ…」とか「番組スポンサーがこの意向を楽曲に取り込めないだろうかって言ってます…」とか、「アーティストがあのキャスティングはどうかと言ってます…」などなど、本末転倒な議論がテレビ業界・音楽業界・広告業界で吹き荒れておりました。どこにプライオリティがあるのか、誰がイニシアチブを持っているのか、いま冷静になって考えてみると、どうしてそんなことが整理できていなかったんだろうと思います。だからこその“バブル”だったんでしょうかね。バブルに踊らされていた当時の音楽業界がくすぐったいやら恥ずかしいやら…。

昨今、ライブ動員の増加など、音楽は少しばかり元気を取り戻してきたといわれています。ですが、ミリオン連発ということではありません。新たな媒体としてネット社会が台頭してきているとはいえ、そこから新しい音楽とのコラボが始まっているという話もあまり聞きません。逆にネット社会の普及で、“音楽=タダ”という世の風潮が、音楽業界にとってはまさに逆風となって吹き荒れ出しました。ネットは全世界と繋がるための素晴らしいツールですが、そのことが日本の音楽の世界進出に寄与しているという話もトンと聞きません。その観点でいえば、アニメが日本のエンターテイメント代表として、ネットを通じ世界中により多くのファンを増殖させています。かといってアニソンが世界中を席巻しているという話も聞きません。常に新しいメディアとのコラボレーションを模索してきた音楽のことですから、ネット社会とのコラボレーションで邦楽の世界的拡散というものは出来ないものなんでしょうかねぇ。

とここまで書くと、良き時代を知る者のボヤキにしか聞こえないかもしれませんが、ラジオ番組『ロックページ』での若い世代との付き合いで再認識、そして再確認できたことがあります。昨年20歳を迎えた前研究員の倉益クンといい今度の菖蒲クンといい、ボクやMCの今野多久郎がプレゼンテーションする、ボクたち世代のフェイバリットソングに、すごくナチュラルにいい反応をしてくれます。古いからと邪険にするのではなく、ビビッと感じたものは“よし!”と素直な感想を言ってくれます。そう考えると、いろんな面でボーダー(線)を引いてしまい決めつけてしまっているのは、様々なシーンを見てきたことでどこかに素直さを置いてきぼりにしてしまっているボクたち世代の悪い癖なのかも知れません。無理に時代にリンクしようとするのではなく、もっと素直に感性を遊ばせもの作り(音楽作り)に集中すれば、きっと新しい音楽の可能性は広がってくるでしょう。音楽はまだまだ底知れぬ力を秘めているとボクは信じています。二人の若き研究員との楽しい時間は、そんなことを感じさせてくれました。

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