COLUMNCOLUMNグーフィ森の『Single Speaker』

Single Speaker Vol.30 「CDパッケージ至上主義!? 」 

2016-03-14

先日Webニュースを眺めていますと、ロンドンのオックスフォード・サーカス(東京でいえば原宿ってとこですかね)のレコードショップHMVが1月いっぱいで閉店となった事を伝えていました。若い女性音楽ファンのリポートだったのですが、2010年のHMV渋谷店閉店時のちょっとした騒ぎっぷりを知っている方で、その差を彼女なりに解析するというリポートです。
東京渋谷の閉店は、若手アーティストが“これまでの感謝”を伝えるために来店するは、閉店を惜しむお客の来店が切れることなく続くは、夜の閉店時間にいたっては、店の前は半ばお祭り騒ぎ!? オックスフォードのHMVがいつもの閉店と何ら変わりなくただシャッターが閉じられるだけの呆気ない閉店っぷり(?)に、所変われば違うもんだなぁというリポートでした。そのリポートには、ロンドンではCDという音楽フォーマットの存在がどんどんデジタル音源の配信へと移行して、若者の間ではデジタル配信の方が断然主流だという現状報告がされています。そうなのです。アルバム音源のセールスに関してこんな数字が発表されています。アメリカ約57%、イギリス64%、そして日本85%。これCDセールスの示す割合です。日本は断然CDを購入しているんです。彼女はこうも書いていました。こっちの若者にとってCDという音楽のフォーマットはもう古いとされているようだ! そうです。やれやれ、やっとストリーミングのデジタル音源を聴こうとしているようなアナログおじさんにはなんともなお話です。しかしちょっと待って下さい。こんなデータもあるんです。日本では昨年、一昨年とデジタル配信による売り上げが落ち込んでいるというんです。それに英国では、CDはもう古い。セールスが下降の一途だといいながら、更に古いアナログ盤のセールスがCDをこの2・3年上回っていてさらに数字を延ばしている。という不思議なデータも!? う〜ん摩訶不思議。で、ボクなりにもろもろ分析してみると……。

ボクの初アルバム購入は、1968年のお正月のこと。三が日開けの4日にお年玉を握りしめレコード店に哲也少年(アハッ、本名です)は走ったのです。買ったのはもちろんビートルズ。『ミート・ザ・ビートルズ』という1964年発売の米国キャピトルレコード版です。本当はオリジナルアルバムが欲しかったのですが、あいにくの売り切れで泣く泣くの購入でした。ですが欲しかったオリジナル版と同じジャケットでボーナストラック3曲入り、なんだかちょっと得したような気分で……、いかんいかん、話しがビートルズへ流れてしまいそうで…… で、何が言いたかったかというと、この頃からアルバムは3,000円だったということなんです。そうですそうです。タマゴは物価の優等生なんてことがよく言われますが、レコードだって負けちゃあいません。いいや、それ以上かも知れません。なんたって40年以上たいして価格上昇してませんからね。しかしちょいまち、ボクが初めてビートルズを手に入れた頃の3,000円は、なかなかのお値段だったということで、レコードはタマゴの優等生ぶりとは根本的にちょっと違うのかもしれませんね。とにかく当時の価格は、英米に比べるとべらぼうな価格であったことは事実です。そして洋楽ファンからすると、その高級感(?)が逆にコレクターズ・アイテムとしてのレコードの価値を上げていたところも無きにしも非ずだったように思います。が、70年代後半から輸入盤が街のショップでポピュラーに並ぶようになると、洋楽フリークは当然のように輸入盤へと向かいます。ボクら洋楽ファンのレコード所有枚数が加速度を増して行ったのもこの頃でした。なんたって邦盤の半額以下ですよ。いかに日本のレコードが高いのかその実態をこの頃初めて知ったという音楽ファンも多かったのではないだろうか。この頃、ボクも初めて訪ねたアメリカで、ガソリンの安さとレコードの安さに強烈なカルチャーショックを受けたこと覚えています。レコードは日本の約30%、ガソリンにいたっては25%そこそこ、「ウッソだろ〜!?」と真っ青なカリフォルニアの空を仰いで、アメ車がなぜデカいのかが少しばかり分かったような気でいたのは、今では半ば勲章のような錯覚だと思っています!?

え〜、話しを戻しましょう。さきほどのCD購入のデータですが、あれはあくまでアルバムの購入に対するものでした。あれがシングルだと数字は違ってきたと思うんです。日本の数字も海外に幾分近づいてくるんじゃないでしょうか。なにせ今時の音楽ファンの若者は、音楽はスマホ+イヤホンで聴くのが圧倒的に主流なのです。まずは気になる曲をYou Tubeで無料で探し出し、そして当然デジタル配信のダウンロードでシングル購入からのスタートっていうパターンが最もポピュラーらしいのです。アーティスト買いこそが音楽通の王道で、アルバム買いがメインのレコード購入方法なんてパターンはボクたちのような往年の音楽ファンにこそ言えることらしいのです!? そうそう、シングル買いなんてのは、ボクらの時代(ボクらが若かった時代)、逆にマニアックなコレクター買いだったように思います。そんなアナログ世代は、CD発売後も一番のユーザーであったこと・あることは間違いありません。“レコード=ありがたいもの”という幻想のような思い込みすらボクらアナログおじさん達にはあります!? クラッシックファンや演歌ファンだって同様だと思いますよ。いやそう思いたいボクが今ここにいます。で、そんな幻想派のオジサンたちがCDアルバムの購入比率をグ〜ンと押し上げていることは事実だと思いますです。

で、そんなアナログ世代のオジサンたちを錯乱させるような大事件が80年代半ばに起こりました。そうですそれがCDの登場だったのです。ただこの頃のCDは、音源のデジタル化などの技術がまだまだ発展途上にある状態で、音楽ファンやオーディオファンはチトがっかり。そんでもってレコードメーカーは慌てます。輸入レコードのポピュラー化で危機感が出始めたところへもって、期待のニューカマーCDがまさかの戦力外通告!? とあちらこちらで囁かれることに。それがどうやら外盤(輸入盤)と邦盤の差別化を更に図るため、様々な付加価値を小さくなったCDパッケージの中に入れ込んで(押し込んで)来るということになったようです。ライナーノーツに豪華解説書、PHOTOBOOK,etc。CDアルバムはますます豪華なものになり、外盤とはどんどんかけ離れた日本オリジナルなものへと進化(?)していきます。この勘違いした思い込みこそが、我が国のCDパッケージ至上主義と言えるところなんじゃないかな。商品にあれこれいっぱい付けて豪華にするのが日本のお家芸みたいなところあるじゃないですか? いい音がお安くあるに越したことないじゃないですか!?

お安い定額のストリーミング・サービスが様々な会社で始まり出しました。さぁて、我が国のレコードメーカーは、どんな秘策に打って出るんでしょうか!?

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