COLUMNCOLUMNグーフィ森の『Single Speaker』

Single Speaker Vol.38 「だから、“必要性ある無駄” 」 

2016-12-05

先日 お昼のワイドショーと夕方のニュースで、カセットテープが再び人気に、というトピックを流していた。アナログレコードの世界中での人気復活劇といい、“レトロチックなものへのある意味無い物ねだり!?”と決めつけてしまうことはできないものがあるように思います。そのカセットテープ人気のトピックの中で、カセットテープ専門店(こういうお店があること事態ボクはビックリしている)の店長さんがこんなことを言っていた。「デジタル化とIoTの進化で、音楽はますます無形化しています。その反動みたいなものもあるんだと思います。」このコメントに大きく反応えらく納得。音質云々って話ではなく、確かに店長が言ったとおり、音楽の無形化というのはあるんです、進行してるんです。そのことは実感してました。アナログからデジタル、レコードからCD、そして配信、音楽はこの30年足らずでその形態を進化(激変?)させてきました。その凄まじいスピード変化のど真ん中で音楽制作や雑誌編集に関わることができていたことは、ボクのような新しモノ好きにとってはある意味幸運なことではなかったか!? と現役リタイヤ、音楽シーンの傍観者となった今はそう思っています。

「音楽の無形化」ですが、このことに関してはかなり以前からそのことにつながるのでは、ということを考えてました。それは無形化というより一段階手前の小型化に関しての“う~ん、どうなんだろう!?”という疑問でした。
ボクが雑誌『POPEYE』の編集部に籍を置いていた頃の話です。80年代に入ると、レコードメーカーからプロモーションで届けられる新譜(ニューアルバムやニューシングル)が、アナログレコードからCDへ変わりました。と同時に新譜は郵送で編集部に届くようになりました。ニューメディア(CD)の登場というのも大きいのでしょうが、何より経費削減っていう命題の方がメーカー的には大きな要因ではなかったかと…。諸経費やプロモーターさんたちの労力は大きく削減されたとは思いますが、何か大切なものもたくさんなくなっていったように今は思えて仕方ありません。

アナログレコードのアルバムを20枚ほども入れたメーカーの紙袋を片腕に、反対側の手にはこれまた紙袋いっぱいの様々な資料がどっさり(1つの出版社にはいくつもの編集部がありますからねぇ)。それで東銀座の編集部までやって来てくれるわけですよ。20枚のLPレコード(懐古言葉です)といえば結構な重さですよ。提げ袋の細い持ち手じゃすぐに指が痛くなるはずです。しかもマガジンハウス担当のプロモーターには、どういうわけか女性が多かった!?(なぜだったのかは深く追求したことはありません!?)。で、雨の日も雪の日もです。大変です。だからして、たまには飯でもご馳走するか、と食事に誘うと、これが盛り上がるんです。趣味趣向はどんなに違おうとも、根っこの部分で“音楽好き”同士ですから、やれあのアーティストが、いやいやあのバンドのあのライブが…と毎度毎度話は尽きることを知りません。プロモーターの熱弁に押され「聴いてみようかなぁ」となったアーティストは数知れず。そんな“盛り上がり”や“新たな出逢い”も、新譜の郵送化でめっぽう少なくなりました。

長い海外出張から帰ると、ボクのデスク周りはレコードメーカーの紙袋がドバッと。デスクは埋もれてるんです。歌謡曲からクラッシック、ジャズと様々なジャンルの新譜てんこ盛り状態なのです。すると「ねぇグーフィ、もらっていい音なんかある?」と音楽好きの編集者が寄ってくるんです。これが妙に嬉しい。「ちょっちょっと待ってくださいよう」と慌てるボクの顔は微笑んでいたと思います。この音楽好きがたくさんいる編集部で音楽を担当させてもらっていることに、大きな感謝を感じていたのは間違いありません。だってこのレコードの争奪戦は編集部の人気のイベントでしたからね、ボクはどうにも誇らしかったのです。その人気イベントもCD時代に入るとなぜかなくなりました。
何人ものプロモーターが足を運び「◯◯◯の新譜お届けにあがりました…今回 非常に良いです云々…」というメッセージを残しているプロモーターの頑張りを編集部のみんなが見てるんです。そんなの全て含んでのボクのデスクに山積みにされた紙袋なのです。その注目度には、不思議な威力さえあったんではないかと今は思っています。だからこそ、音楽好きの編集者たちを争奪戦へと駆り立てていたのではないでしょうか!? 

またその紙袋は、様々な旅と素晴らしい出逢いを演出してもくれました。「フランスのプロヴァンスに◯◯のライブを聴きに行きませんか!?」「サンフランシスコである◯◯◯という音楽フェスを取材しませんか!?」「ニューヨークでビリー・ジョエルに会いませんか!?」などなど、そりゃ~音楽ファンが歓喜の悲鳴を上げそうな話がその紙袋からは次々と飛び出しました。なつかしい想い出ばかりです、書き出すときりがありません。

ボクは編集という現場にいたからこその体験ばかりですが、世の中的にもCDの登場は、これから始まるデジタル時代のスタートの大きな合図のようなものだったんじゃないのかと思っています。この頃からです、世の中全てのものが、コンパクト化、スリム化といったダウンサイジングを謳うようになったのは。確かにいろんなものがより便利に、より手軽になりました。しかしその陰で世の中から削除されてしまったものも多かったように思うのですが!? コンパクト化でそんなことをガツンと感じてたんです。“無形化”という言葉に過剰反応してしまったボクの心情をお察しください。

さて、カセットテープが今また人気に。という話でしたよね。この動きは正直驚きました。新しモノ好きとしては少々戸惑いがあります。今となっては、音楽の無形化の経過点上に登場した感じのあるカセットに、専門店ができるほどの人気が出ようとは、わからないものです。
若い頃の想い出の中にはしっかりとその存在はあります。オープンリールのレコーダーに苦戦していた頃が嘘のような便利さ、その手軽さ、その登場は確かに“革命”でした。そしてカセットはその音にも特有のものがあります。現在のデジタルサウンドと比較すると、テープレコーダの音はちょっとこもった音に感じるかもしれません。それはボーカル付近の音域(周波数)がとても伸びやかに鳴るチューニングがなされているからなのです。シニア世代に根強い人気のカセットですが、それは理に適ったマッチングなのかもです。演歌を聴くにはベストマッチですからね。そういう意味では80年代歌謡が最近人気ということですが、そちらにもドンピシャなアイテムかと思います。アーティストによっては、レコーディングの最終確認をわざわざカセットに録音して出来上がりの最終確認とする人(ボーカリスト)もいるくらいですから!? そんなことを思い返していると、なぜカセットテープは必要だったんだろう? とか、どうして必要性がなくなったんだろう? とか“なぜだっけ!?”がまたまたアタマの中をグルグル廻ります。う~ん、トレンドの流れとはそういうものなのでしょうか!?

ボクはこう考えています。昨今、世の中全てものの変化・進化がそのスピードをめまぐるしく増しつつあり、怖いくらいの加速度がついてきてるように思います。その真ん中にあるのがITそしてIoT社会です。だからこそ、新しさの加速度ばかりが上がらないよう、“必要性ある無駄”というものの存在意義をここらで再認識しなければいけないのではと思っています。そんなことがIT&IoTで展開されれば面白いかもです。世の中という大きなキャンバスにはちょっとの小粋な間(余白)が欲しいですからね。その小粋な間(余白)の見極めこそが難しかったりするんですがね。

とカセットテープ人気復活のトピックであれやこれや考えましたというお話でした!?

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