COLUMNCOLUMNグーフィ森の『Single Speaker』

Single Speaker Vol.41 「 とんだバレンタインデー!? Part2 」 

2017-03-25

奥さんの神頼みは5つでした。ボクの視力の回復、聴力の回復、疼痛の軽減、バランスの回復、口腔内の改善でした。山盛りですよね。で、聴力までお話ししました。が、早くもここで道草させてください。
聴力ですが、面白い話がいくつかありまして‥‥。耳鼻咽喉科はM宿病院にかかっているんですが、ここの担当医さんがちょっと面白いんです。
「大したもんだ、それだけしっかりしていれば。脳幹出血なら普通死んでるからね。いや、大したもんだ、大したもんだ。」って言われてもねぇ。この担当医、デスクの上にはビシッと制服を着た写真が凛と鎮座(?)しております。しかも写真のベレー帽と胸にはバッチがズラリ。偉そうです!? そうなんです。この方、M宿病院のお隣にあるGI病院からの出向でみえてるんです。GI医師(軍医?)ならではのズバズバトークなのです。で、「普通死んでる、死んでるねぇ」の連発。「あ~、左の鼻の穴がくっついちゃってるなぁ。ふさがっている。まぁ切開すれば全然大丈夫でしょう」「エ~ッ!」とにかく、Mr.ズバトーク(あだ名つけちゃいました!!)の説明によると、「たぶん救急処置のとき、呼吸確保のために鼻から管を通した際に傷がついたんだな、こりゃぁ。それで傷が治る際にくっついたみたいだねぇ、恐らく。じゃ、ちゃっちゃっと切っちゃいましょう、今日」「エ~ッ ! 」この先生、低い声優ばりのとてもいい声で、いつもスゴイことをサラッとおっしゃいます。2度目の診察の時「診たところ聴覚の機能には問題はないようだが、頭だからなぁ。うん、あとは、運動機能の回復で聴力がどこまで戻ってくるかだねぇ。ま、あまり期待はできないが!」期待できないって、「エ、エ~ッ ! 」「一応、聴覚検査をやっときましょう!」この付き合いが早8年。このMr.ズバトークが、現在我が家の一番人気の担当医なのです(失礼ッ)。のらりくらりと、結局ワケわかんないことばかり並べ立てる一見優しい医師より、びっくりするほどの直球をバンバン投げてくるぐらいの医師の方が、信頼感が持てるというもの。

聴力検査(あのピーッってやつです)の結果を告げるとき、「あなたの方がプロだと思うんだが・・・」と言い出したんです。おそらく、カルテのプロフィール的なものに職業 音楽プロデューサーとかなんとか書いてあったんでしょう、その後の会話の中で幾度も「音に関してはあなたの方がプロだから・・・」と繰り返します。最初のうちは、意外に社交辞令みたいなことも言うんだな~なんて思っていたんですが、3度目の検査のときです、Mr.ズバトークの言葉の真意が理解できました。
右耳は激しく音がこもっていて、モコモコ状態。感度もあまり良くないことが想像できます。左耳の感度はそこそこと想像できますが、音がイガイガしてます。もう少し詳しく言うと、左耳はイコライジングを思い切り立てて録音した音のようで、激しくドンシャリしてます。右耳は、思いっきり丸めて(わかります?)モコモコ状態にしたみたいなんです。ちょっと説明がマニアック過ぎましたか(!?)。そんなことを思った瞬間、Mr.ズバトークの真意を理解しました。感度は医学的・科学的に数値化できるんですが、音がどれくらい正確に聞こえているかいないかは、聴覚検査では判断できないということなのです。つまり数値化できないということですね。
事実、聴力検査の結果によると、右耳は正常値の約50%。左耳は約70%の聴力という結果が出ました。数値だけでいうと、左耳の方がいい結果になります。しかしボクにすれば、どっちもどっちです。どちらもかなりストレスとなるいい加減さですから。
お気づきになりましたか? 聴力検査ではあくまで『感度』しか計測できないのです。実際に聞こえている“音質”は計測しようがないのです。本人のみぞ知るってことになりますかねぇ。まぁこんな分析ができるってことは普通じゃないみたいですよ、何たって元音楽プロデューサーは音のプロですからね!? そのことを言いたかったようですねMr.ズバトークは !! 
とにかく、右耳で小さくモコモコの音で「ピーッ」と聞こえる音は、左耳では大きく「ザァーッ」と聞こえます。これ最近は慣れましたが結構不便です。なので両耳合わせて原音を想像して聞いています。これ自己流の対処法です。医師からはなんのアドバイスもありませんし、治療もありません。もちろん、有効な薬など一度も処方されたことはありません。感覚障害は現代医学ではまだ難しいんですね~。ゆえに音楽を楽しむまでの慣れだったり技などはまだまだ習得できておりません!? 音学好きとしては、その辺のところがなんとも寂しいところです。

続いては疼痛です。こう書いて“とうつう”と読みます。どんな後遺症かといえば、TVCMで武田鉄矢さんが「ジンジン、ビリビリ」と言いながら教壇に立ち、金八先生の授業のように教えてくれる『神経性疼痛』のことです。一般的なレベルの疼痛だと「神経の異常な興奮からくるジンジン、ビリビリ」なのですが、ボクの場合は、直接脳にダメージを受けての疼痛です。「ジンジン、ビリビリ」はハンパない。一般的な疼痛は、神経痛の親戚のような感じらしいのですが、ボクの場合は発症当時こんな風に説明を受けていました。「戦場で足を失ってしまった兵士が、病院のベッドで無くなってしまった足がイタイ!! と叫ぶシーン」まさにあれと同じだというのです。こんな説明も受けました。「実際にケガなどの患部があるわけではないからねぇ。脳の誤作動だからね。寝てしまえば大丈夫」ってことは起きている間じゅうイタイってことです。これが軽減されれば確かに日々がバラ色ですがねぇ !!
次なるは、バランスの回復です。これも厄介なヤツです。ボクが脳出血を発症した部位の周辺はバランスのコントロールを司っている部位です。数ある後遺症の中でも最も面倒なものの一つです。

この夏にリハビリ生活9年目に入ります。かなりいろんなことができるようにはなりましたが、未だ自立歩行はできませんし、両手でテーブルを常時握って支えてなければ座っていることもままなりません。バランスを感知する様々な機能に問題はないのですが、筋肉をどのように働かせてバランスを保てばいいのかがうまく指示できないのです、アタマがね。カラダが傾いて倒れそうだ、というのは認知できるんです。でも倒れないようどうすればいいのかは指示できないんです。そんなことは本来無意識にできているはずですから、日々転けないよう四六時中注意してるだけで結構疲れちゃいます。大変だこりゃぁ!?
で、この後遺症は外から見ただけでは全くわからないというのも、面倒な大きな要因の一つとなっています。見ただけで障害(後遺症)が把握できると分かりやすいでしょ? ボクも周囲の人たちもね。障害(後遺症)が視覚的に分かりやすいかどうか、これかなりのポイントです、日常生活のうえではね。

奥さんがリストアップした最後の後遺症が、口腔内の麻痺の軽減でしたよね。じつはボク、この後遺症が良くなって欲しいNo.1です。こちらも特盛りです!? まず唇と顔面は左半分が麻痺しています。ちょうど歯医者で麻酔をかけたような感じです。そして口の中は右側麻痺。ゆえに当然上手くしゃべれません。そして上手く食べられません。今までこんなにも複雑に舌を使って食べていたのかと、感心しきりです。うまく動かせない舌ではお米を食べるのは難易度のかなり高いものなんですよ。ですから、おこわや冷やごはんという冷え固まったものならOKですが、基本お米は食べません。おかず一直線です!?  また嚥下(えんげ/飲み込みのこと)も悪いときてるんで、誤嚥要注意です。気を抜くと「オエッ」となり、びっくりするほど簡単に肺炎になってしまいます。また、舌の先が温度に対しての感覚異常で、ぬるいくらいでもアツアツで火傷しそう(?)に感じちゃうんです。アツアツの小籠包を食べて口の中で回しながらフーフーするなんて夢のまた夢、な話なのです。
嚥下の悪さは、喉の麻痺から来ているんですが、これもちょっと難しいんです。常温の水は誤飲しちゃうんで飲めないんです。まぁ、常温でなくても特に水分は苦手で、味噌汁はかれこれ8年間ご無沙汰です。味噌汁の具だけ取り分けて食べています(それ、もはや味噌汁じゃないし)。フルーツもダメですね。水気が多いですから、大好きなんですがね。とまぁ~厄介です。でも、この厄介さで回復希望NO.1としたわけじゃないんです。

大病を患ってから9年。考える時間はたっぷりありました。そんな中で自分にとって何が一番大切なのか、幾度も幾度も考えました。炊きたてのごはんにイカの塩辛をのせて、あ~ぁ、ウマソ~。いやいや卵かけごはんなんてのもいいなぁ。以前のようにコーラをグビグビ飲み干してもみたい! だから口腔内麻痺の軽減が回復希望NO.1、って運びじゃぁないんです。

やっぱり、ボクらにとって最も大切なことは、人とのコミュニケーションなのです ! この9年間のリハビリ生活で気づいた“当たり前”の真実でした。カラダの不具合は、自身で乗り越えるよりありません。人とのコミュニケーションから生まれる、元気だったり、勇気だったりは乗り越えるためのすてきなエネルギーをくれるのです。だから以前のように、いや、もっともっと人と話がしたい!! ゆえに、回復希望No.1なのです!!!

いやいやいや、長々と愚痴を書いてしまいました、ペコリ。後遺症はまだまだ山盛りありますが、何かスーッとリフレッシュしたような!? 感謝です。


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