COLUMNCOLUMNグーフィ森の『Single Speaker』

Single Speaker Vol.46 『インストゥルメンタルの魔力? 魅力?』 

2017-09-14

数年前からインストゥルメンタルの音楽をよく聴くようになりました。考えてみると、若かった頃は、嫌いではなかったのだが、音楽を聴く上でインストものを聴く割合が高かったとは決して言えない。もちろん、Rockがプライオリティーの最上位にあったのだが、ジャズやラテンの特にインストものは、それなりに誘惑はされていたことを覚えている。だが恥ずかしいことに、インストものをどこかでオジさんたちの音楽として蔑視していたところが確かにあった、若い頃はね。しかし今、しっかりとオジさんになった!? というか、立派に還暦越えだ。そして、びっくりするくらいどっぷりとインストものの音楽に毎日浸っている。これって何なんだろう? オジさんを癒す驚きの魔力のような何かがインストゥルメンタルの音楽にはあるっていうことなのか!? そしてこう考えた。ひょっとすると魔力の要因はVocalの有無にあるんじゃなかろうか? と。

今音楽を聴くと若い頃とは比べものにならないくらい、言葉、つまり歌詞(リリック)が真っ先に耳に飛び込んでくる。若い頃は、まずはビートだった。また、歌詞そのものも、内容ではなく歌詞の持つリズム感の方が重要だったように記憶している。その上で何が歌われているのかを問題視してたんじゃないだろうか?何しろビート感、なにがなんでもビート感、だったんだよなぁ~あの頃は・・・。それに若い頃(10代後半~20代前半の10年間)は、聴く音楽の70%以上が洋楽でした。現在のように様々なスタイルの音楽が日本の音楽シーンにはまだ少なかった時代ですから。それも洋楽漬けになる大きな要因の1つでした。そこへもってきて当時は、英語力がお粗末だったもんだから、英語の歌はほとんど楽器が鳴ってる言わばインストとして聴いてたんじゃないのかな!? で、勝手な解釈をしてはわかったようなフリしてたんだと思う、きっとね。あの当時の若者みんながみんなそんな音楽の聴き方をしていたとは思いませんが、少なくともボクの周辺ではそんなちょっと変則的な洋楽リスナーがたくさん増殖していたような気がしています。

「インストが心に響くようになったんだなんて、歳をとったからそう思うんじゃないの!?」と決めつけてしまうことは容易にできますが、絶対それだけじゃないと思うんです。音楽の趣味趣向で結論づけちゃうのも違うんじゃないかとも思えますし・・・音から発せられるα波が左脳に作用することでなんとかかんとか、な~んて科学的分析をするものでもないし、う~ん難しい。 

いやいやいや難しく考える話じゃないんです。あくまでインスト音楽には癒し効果があるって話しですから。
話が振り出しに戻ったところで落ち着いて考えてみますと・・・インストものに俄然興味を持ち始めたのは、喜多郎のアルバム『古事記』(1990年)に参加した時からです。このプロジェクトは何もかもがすごかった。そう、全てがボクにとっては初体験となるものばかり、それは夢のような驚きが次から次へと続く2年間でした。アルバムの制作、その作品を持ってのワールドコンサートツアー。全行程じつに3年という長丁場でした。グラミー賞ノミネーションまで入れると、足掛け4年のビッグプロジェクトだったのでした。また寄り道です!? お許しを。

そのはじまりは1988年の秋でした。「Goofy、これ読んでおいてよ」と喜多郎が所属する事務所・アミューズの大里会長から渡されたのが『田辺聖子の古事記』でした。「これをもとに喜多郎でなにか考えられない?」 これビビッときちゃいました。創生の神話、これって世界中に同じようなアプローチが存在します。だから『古事記』を題材にアルバム展開を考えるというアプローチは、なかなかおもしろい結果が生まれるかも。そして喜多郎の世界的ヒットアルバム『シルクロード』に続く次のステップが見えてくるかも・・・。そう考え出すと、もう次から次へとアイディア(半ば妄想)が炸裂します!? そのアイディアの炸裂感(?)、そしてボクの異様なまでの高揚感に会長が、「そのまま、喜多郎に話しに行こう!!」。で、喜多郎が「古事記の組曲ねぇ~? おもしろい!!」とトントン拍子でアルバム古事記プロジェクトはスタートしたのです。

このアルバムの制作は、かつて経験したどのプロジェクトとも違いました。なにしろ全てにおいて懐が深いのです。いつもゆったりとしたリズムが流れていたように思います。喜多郎というアーティストの人柄もあったと思いますが、当時ボクはそれ以上に、インストゥルメンタルの持つ不思議な寛容性を感じていました。間接照明の作り出すあの温度感と言ったらいいでしょうか、ぬくもりの世界です。それこそが喜多郎の奏でるインストゥルメンタルの本質なのではないか、とボクは思っています。

話がだいぶ逸れてしまいましたが、ボクの言わんとするところ少しは感じていただけましたか? オジさんを癒すインストの魔力、いや魅力のお話でした。 

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