COLUMNCOLUMNグーフィ森の『Single Speaker』

Single Speaker Vol.60 『10年ぶりの年末年始』 

2019-02-12

この年末年始は、10年ぶりに病院へ入院という久々のものとなった。誤嚥性肺炎というちょっと情けないものだった。誤嚥性肺炎といえば立派に老人性の疾患だ。う~んなんとも言い難い?? しかも重症ではなかったものだから、暇で暇で。病室にどんよりと重—い空気が半月近く立ち込めていた。人間とは本当に勝手なもので、忙しくしていた頃は日々休みたいと思っていたものだが、時間を持て余している昨今では、どうやって時間を潰そうか毎日頭を使っている感じなのだ。

そんな状態だから、この年末年始はかなり苦労した。5、6分おきに時計を眺めるんだが、こういう時に限って時計の針は恐ろしく進んでくれない。というより時計の針が逆回りしてる気分だった。ったくもう実にイライラする。病床ゆえこのイライラは解消されることなく、半月の入院はずっとイライラ時計ばかりを眺めていた状態だった。おそらく数年分は時計を眺めたんじゃないだろうか!? 視聴覚が壊れているので、本を読むこともテレビを見ることもラジオを聴くこともなかなか難しい。となると、時間つぶしがとんでもなく厄介なことになってくるわけですよ。どうしたものかってね。だから1日1回5分そこそこの診察が唯一の仕事(?)。待ち遠しいのなんのって!? あんなに嫌いな診察だったのに、常に待ち焦がれてました?? 本当に人間ってなんて勝手でわがままな生き物なんでしょう・・・!?

そう言えば10年前の大病発症当時もこんなだったなぁと少し思い出しました。あんときゃぁ半年間でしたから、暇さ加減も半端じゃなかったですから‥‥。今思い返しただけでゾッとします!? しかし10年前もそうだったんですが、年末年始という特別な時間に病院という普段とは全く違った環境で過ごしたことで、恐ろしいほどの暇を忘れさせてくれる素敵な出来事もありました。

初めての長期入院では5ヶ月目に年末年始を迎えました。リハビリ病院は重篤な患者さんが少なく、年末年始を自宅で過ごすという患者さんが多くて、大晦日からお正月の三が日は病棟がガランとしちゃうんです。すごい体験でした。それはそれで寂しいものがあるんですよ。いろいろ考えちゃうんですね。これからどうしたらいいのか、この先どうなるんだろうとかとか、あれこれ暗い世界へ迷い込んじゃうんです。なにせこの頃一番怖かったのが“静寂”でしたからねぇ。ボクっぽくないじゃないですか、そんなの。で、病室が5階だったのでとにかく景色がよかったんです。だから暗い世界に入り込むなと思った時には、遠くばかりを眺めていました。天気のいい日は富士山がそれは美しくてね。なにせあの優しさの威力ときたら、とにかく全てを包み込んでくれるのです。どんなにイライラ、むしゃくしゃしていても、あの美しい三角形を見ると、ほっとしちゃうんです。偉大な山です。さすがの名峰です。

その名峰富士が、その年の1月2日にとんでもないことになりました。その年のお正月はそれは素晴らしい晴天でした。夕方にちょっとウトウトしていて目が覚めて病室のベッドからふと外を見てみると、東京の西側が一望できる病室の窓からそれは見たこともない夕景が現れたんです!! 真っ赤なんですよ!! もう圧倒的に全てが真っ赤でした。もちろん富士山も真っ赤。あれほど赤く染まった富士山も東京の街も見たことがありません。5ヶ月目に入った入院生活の心のモヤモヤがあの夕景でぶっ飛んじゃいました!! ブツブツ言ってたってしょうがないって、新たな身体で頑張って行くよりないんだから!! そう諭されているようで、「なんだか、自分ってちっちゃいなぁ~」と真っ赤な富士山に首を垂れてました・・・。あれから10年になります。新しい身体にも十二分に慣れ、精神的にもぐっと大人になっていると思っていたんですが・・・。

昨年末もそれはいい天気でした。晦日の夕焼けは、10年前の真っ赤な富士の夕景に勝るとも劣らぬ絶景でした。東京にもこんな景色があるんだ、すげぇや。すげぇ!! そう思ったとき、この10年でボクはどれほど成長できてるんだろう? って思っちゃたんです。で、またもや夕景に首を垂れていました。教えられます、自然のデカさには、いつもいつも・・・。がんばれオレ、ファイト!!


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